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「近未来の歯科医療」-2011年IDS(第34回 国際デンタルショー2011/ケルン)報告-

 

「近未来の歯科医療」―2011年IDS(第34回 国際デンタルショー2011/ケルン)報告―

アルモニア      傳寳弥里
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 去る5月19日(木)神奈川県民サポートセンターにて第14回研究発表会が開催された.
 当日の真夏の様な日差しと気温はこれから訪れる暑い季節を感じさせたが,今回の本会会員の福岡正雄氏(株式会社ベルザ)による発表「近未来の歯科医療」もまた,これから訪れるであろう新しい歯科業界の熱さを感じさせるものであった.参加者は12名,会場準備が遅れる中,慌しく発表が始まった.

 

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 福岡氏はIDS(34th INTERNATIONAL DENTAL SHOW)の会場で撮影した映像を使いながら,1.前回のIDS(2009年)と今回のIDSの違い,2.各ブースから見る業界の流れ,3.CAD/CAMについて,4.3Dレーザープリンタについて,5.口腔内ダイレクトスキャン・カメラについて,6.データフリーについて,7.今後のラボ経営の方向性,取り組みについて,の7つのポイントを解説された.

 

1. 前回のIDSと今回のIDSの違い
もっとも違う点は,会場の広さである.前回より3フロア増えていた.CAD/CAMは前回179社が展示していたが今回は出展社数が減っていた.

 

2. 各ブースから見る業界の流れ
以前はありえなかったことだが,オープンシステムによりメーカーによっては自社製品のみの展示ではなくコラボレーションしているメーカーの製品も併せて展示してあった.
インプラントやCAD/CAMのブースは人が少なく,ユニットが置いてあるブースは人が多かった.ユニットが置いてあるブースには口腔内ダイレクトスキャンやカメラがあり,その注目度の高さが感じられた.
中国,韓国メーカーの集まったエリアがそれぞれあり,かなり目立っていた.ラボの出展も多く,特に中国ラボの世界に向けた営業活動の力の入れようには目を見張った.

 

3. CAD/CAMについて
いろいろな種類の材質のプレートが展示されていて製作できる技工物の広がりを感じた.クラウンブリッジを製作するだけではなく,海外ではデンチャーのデザイン及び削り出しが可能になっている.日本でもレジンプレートの薬事申請の動きがあるように聞いている。

 

4. 3Dレーザープリンタについて
粉体と液体の二種類の媒体がある.一般工業界では液体が主であり,粉体と比較して製作物の肌(き)理(め)が細かく精密である.液体樹脂で製作した模型の精度は昨年の横浜デンタルショーで見たものより,数段良くなっていた.また,海外はもとより日本国内でもプリンタを使用して加工の難しいコバルトでフレームを製作しPFMクラウンを製作し出している.実際ドイツでは,プレシャスメタルよりもコバルトが多いと聞く.これからは3Dレーザープリンタが技工作業に必須になる事は間違いないであろう.

 

5. 口腔内ダイレクトスキャン,カメラについて
実際にデモを行なっているメーカーが多かった.模型をスキャンするものもあったが,流れとしては口腔内ダイレクトスキャンであろう.レーザーによるスキャンとカメラを組み合わせた製品が良いと思われる.咬合のデータを取ることにより,顎運動も画面上で再現できるので咬合器が要らなくなる.

 

6. データフリーについて
今まではクローズドされていたが,各メーカーともにデータフリー化に進んでいる.もうCADとCAMが違う会社でも問題ない.これに伴い,ソフト会社の力が益々強くなっている.現在はほぼ2社(3 Shape社とデンタルウィング社)のソフト採用が多いように感じられる.

 

7. 今後のラボ経営の方向性と取り組み
ダイレクトスキャン,CADスキャナー,各プリンタ等の導入を見越した仮定のリース金額を提示し,これからのラボ経営についての考えを解説した.前回の研究発表会でも,CAD/CAMを自費に使用するのか,保険に使用するのかで議論になったが,実際にプリンタを持っているラボの外注の金額を紹介し,受注数があれば十分保険に使用出来ることを示した.
現在,350万円程度で発売になるのではないだろうかと聞いている口腔内ダイレクトスキャンは今後更に値下がりする事が予想されている.低価格になった時の歯科医院への普及率を勘案すれば,最低でもラボはCADを持つ必要がある.CAD及びCAM等を持つ資金力があるかが,今後のラボの生き残りに関係して来るであろうということから,「日本がどういった方向に進むかを見据えて設備を整え,用意しておく必要がある」と発表を結んだ.

 

福岡氏の発表の後,筆者が初めてIDSを見学したセラミストの目線(本会の趣旨から少し外れるが)からの発表を行なった.

 

 メーカーの宣伝方法の意味,日本にはない機材等を映像で紹介した.展示場入場口の外壁には3社の大きなロゴマークによる宣材が掲示してあったが,その中の一つが日本のNSK(ナカニシ)であった.NSKは日本市場だけでなく,むしろ世界市場で躍進しているのだと心強く感じた.IDSでは陶材を殆ど見かけず,その代わりにプレスのインゴットを数多く見たことの理由を世界のセラミックが築盛ではなくプレスに移行しているためと解説した.福岡氏の発表中にもあったように,「陶材を盛り上げる工程は,材料の均質化・信頼性の点から今後無くなる方向にある」とのことであったが,中国メーカー等の展示にあった“素晴らしくおシャレでクリエイター心をくすぐるデザインの陶材用筆”等はとても魅力的で,無機質なデザインのラインアップしか選択肢の無い日本のメーカーも見習って欲しいと感じた.自身がバイヤーでないために入手の交渉すら出来なかった事がもどかしく感じた.また,ある台湾の技工所の見本を見て,“これでもかと言わんばかりの研磨仕上げ”に目を見張った.販促のためのサンプルとはいえ世界市場に打って出るためにはこれ位はしなければならないのだろうというバイタリティを感じた.

 

 ◆筆者の発表の後,2グループに分かれてグループディスカッションを行い,各グループの代表者が結論を発表した.以下は発表内容を要約したものである(発表順).

 

Aグループ発表者    今牧 謙氏(株式会社コアデンタルラボ横浜)
 保険制度等の制限がある日本は,世界の機械化・自動化の流れについていけるのか.自分たちが生き残る術をいろいろな情報の中から見つけだし,過渡期であっても上手く渡っていくことが必要である.
 自分の中で情報を消化し,歯科技工にこだわらず,物作りの中で活かして行く.これからの時代,一番変えなければならないことは,自分たちの囚われた考え方や姿勢なのではないか.

 

Bグループ発表者    鈴木孝弥氏(株式会社ベルザ)
 プレスが主流になれば,技工作業の工程が変わって行く.
 ダイレクトスキャンが入ってきたら,歯科医院からデータがラボを飛び越え,直接センターに行く.その流れの中で,自社が得意な分野を活かし各社が分業化することで生き残りをはかる産業クラスターとしての可能性はどうなのか.集約性があるかが大切だが.

 

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「IDS」
International Dental Show の略.世界で最も権威のあるデンタルショー.ケルン・メッセとも言う.
二年毎にドイツ連邦共和国のケルン市にて開催される.
今回は世界56カ国より1954社が出展,115,000人が参加した.

 

「産業クラスター」
クラスターとは,本来ぶどうの房を意味しますが,転じて群や集団を意味する言葉として用いられています.産業クラスター計画とは、地域の中堅中小企業・ベンチャー企業等が大学、研究機関等のシーズを活用して、IT,バイオ,環境,ものづくり等の産業クラスター(新事業が次々と生み出されるような事業環境を整備することにより,競争優位を持つ産業が核となって広域的な産業集積が進む状態)を形成し,国の競争力向上を図ることを目指す計画です.
産業クラスターの形成にとって最も重要なキーワードは,イノベーションです.イノベーションとは技術革新とも言われますが,具体的には新たな技術やアイデアをもとに競争力ある製品,商品を市場に送り出し,経済社会に大きなインパクトを与えることを言います.
イノベーションを次々に創出できる環境を地域に整備することが産業クラスター計画の基本です.経済産業省では、そうした環境整備を通して,新たなベンチャー企業や世界に通用する中堅・中小企業等からなる産業クラスターが,地域に形成されることを目指しています.

 


 

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