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歯科技工における"効率"を得るための考察 ~ロングスパンブリッジをワンピースでキャストすることの意義と術式~

第25回神奈川歯科技工ネット研究会

歯科技工における“効率”を得るための考察

~ロングスパンブリッジをワンピースでキャストすることの意義と術式~

株式会社ユーエスデンタルラボラトリー代表取締役  宇佐美孝博 氏  講演

 

小倉 洋 (O.D.E.代表)

 

 

  去る平成24年6月15日(金)かながわ県民活動サポートセンター会議室304号室において第25回神奈川歯科技工ネット研究会の定例会が開催された.

  今回は「歯科技工における“効率”を得るための考察」~ロングスパンブリッジをワンピースでキャストすることの意義と術式~」とした標記タイトルで宇佐美孝博氏(株式会社ユーエスデンタルラボラトリー 代表取締役)が会員発表された.

  当日は,月刊歯科技工(医歯薬出版株式会社)40巻5号・6号に共同執筆した宇佐美氏とあって若い会員の参加者も多く集まり,27名参加の盛会となった.

 

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  宇佐美氏は自己紹介の中で,1982年に新潟大学歯学部附属歯科技工士学校を卒業し,縁あって横浜で4年ほど就職勤務され,その後開業したと述べられた.開業後は無我夢中で仕事に取り組んできたが,10年ほど前にセミプレシャスメタルを使用したメタルセラミックスのロングスパンブリッジでトラブルが続発したことがあり,2ケースに1ケースは切断しロー着をしなければならない時期があった.そこで悩んで実験や工夫を凝らし自身なりの解決方法を見つけることが出来たので皆様に紹介したいとされた.それと共に卒業校が新潟ということもあり先輩後輩等含め今まであまり横の繋がりが多くなく,その方法が良いのか悪いのかを第三者に訊く機会が無かったと述べられ,今日は良い機会なので皆様の忌憚のないご意見をお伺いして積極的に情報交換等をしたいと提案された.

 

 

  宇佐美氏の研究発表は,大きく4つに分けて話をされた.

1.ロングスパンBr.のワンピース法で効率を上げる

2.計測システムで効率を上げる

3.コバルトクロム(合金)で需要を伸ばす

4.咬合の付与で再製(作)を減らす

 

1.【ロングスパンBr.のワンピース法で効率を上げる】

  宇佐美氏の仕事は,咬合改善がメインの技工内容であり,下顎位の誘導を伴う咬合治療の際には全顎的な補綴を必要とされる場合が多いと述べられ,必然的にロングスパンのブリッジを扱うケースが多いと紹介された.

  ブリッジの適合には,ロー着やアタッチメントという方法もあるがロー着には凝固収縮や膨張係数の違いによりセラミックにクラック等の発生のリスクも伴うし,何より煩雑な技工操作や材料費(経費)の問題もあるとして,ワンピースキャスト法の有用性を感じているとされた.

  ロングスパンのブリッジを緊密に適合させるのは難しいが,ワンピースキャスト法を確立できれば作業効率アップに繋がるとして,宇佐美式ロングスパンBr.のワンピース法を解説された.

  宇佐美氏の考えとは,たとえばクラウンを製作する際に膨張・収縮の誤差がなく,「ピッタリ」のクラウンを作ったなら?と仮定して,一見滑らかに見える支台でもその表面状態は粗造であると支台歯の拡大図を提示して説明され,その凹凸にメタルが満たされたなら理論的に適合することが無いと考えると述べられた.そこで実際の臨床上では少し大きいクラウンになっているものと思われると説明された.

  この考え方をロングスパンのブリッジに応用して考えた場合,少し大きいクラウンでは支台歯間距離も大きくなりクラウンの内側面に当たってしまい適合しない事態になってしまう.逆に支台歯間を「ピッタリ」にさせようとすると内面がきつくて入らないという現象になる.そこで支台歯間距離の精度を優先する膨張係数を導き出し,膨張が小さくきつくなってしまう個々の支台歯に対しては,支台歯に剥がせるタイプのスペーサーを塗布して予めリリーフしておき,Cr.の内面にスペースを作るという対応方法をとって独自の混液比を導き出していると述べられた.

  このような考え方は単純な理論であり,実際の臨床でも成り立つのか半信半疑であったが支台歯の数や大きさにかかわらず不思議なくらい適合したと述べられた.金属の厚さや形態によって,三次元的に変化することも予想されたが,それは感じられなかったとして変化量がゼロに近ければ0に何を掛けても0になるということと理解したいと紹介された.またリリーフによる空隙が三次元的な変化量を相殺するのにも作用しているものと思われると述べられた.

  さらに鋳造体の適合(大きさ)に及ぼす因子として,以下の8つをあげた.

1.金属の種類

2.埋没材の種類

3.埋没材の粉/液比

4.埋没材の液濃度

5.温度

6.ライナーの種類・厚さ

7.リングの有無・大きさ

8.焼成スケジュール・焼成温度

  この中でも膨張をコントロールしやすいものとして特に3番の粉液比と4番の液濃度をあげられ,その他の因子は常に一定の状態にしておくことが大切であるとされた.

 

2.【計測システムで効率を上げる】

  また宇佐美氏は,所定の混液比や液濃度を適切に導く指針としてクーラントプルーフマイクロメーター[Mitutoyo社製・価格は約35,000円]を使用していると述べられ.横方向は上部と下部,縦方向を一度に製作することが出来るコの字型の検体(試験片)を使用して,独自の計測システムを確立していることを紹介された.

  このマイクロメーターは,千分の一ミリまでデジタル計測ができて,さらに良いところは同じ圧力で計測できると説明され,測る対象物が小さいのでちょっとした誤差でも数字が変化してしまうので被計測物に適した精度の良い物を使用することが重要であると話された.

  使用方法としては,検体に刻みの印を入れてキャスト前とキャスト後に同じ位置で同じ圧力で計測することが肝要であるとした.

そして純粋に実験だけでは検体数は増えないので,日頃の臨床補綴物のワックスパターンと一緒に検体物を埋没し,仕事の合間に検体数を増やして計測データの蓄積を増やすことも大切であると述べられた.

  そこで先ほどの宇佐美氏独自の混液比とメーカー標準混液比とを使用して製作した検体(約2.5㎝・セミプレシャスメタル・リン酸系埋没材使用)をマイクロメーターで計測した表を用いて詳細に差異を説明された.

  簡単に解説すると,宇佐美氏独自の混液比の方が明らかにパターンと鋳造体の数字の変化が少なくなっており,そのことにより支台歯間距離変化が少なくなるのでロングスパンワンピースブリッジに対応できることを証明している.また宇佐美氏独自の混液比を使用するには,剥がせるタイプのスペーサーの使用が欠かせないが,自身が使用するスペーサーの厚みも計測し支台歯と補綴物との間隙を計算して,独自の混液比とメーカー指定の混液比による補綴物内面間隙距離の違いも理論的に説明なされた.

  この鋳造による鋳造収縮補償の考え方は,CAD/CAMによるジルコニアのブリッジを適合させる際に半焼成ブロックの20%の収縮量を軸間距離において正確に再現する一方で,支台にはリリーフを設定して入りやすくしている考え方と近似していると説明された.

  さらに宇佐美氏は,我々歯科技工士の仕事は模型に適合させることにとどまらない.その先の口腔内で機能してはじめて成功と言えるとし,そこには印象作業と石膏注入というハードル(関門)が存在すると言い.ワックスパターンと鋳造体の鋳造収縮の実験データのみならず,印象材と石膏模型の膨張実験にもこの独自の計測システムを活用していくことを推奨された.

しかし計測システムを応用することによりその性質はある程度理解できるが,印象材や石膏の管理や種類や環境を歯科医院側に委ねている以上,残念ながらその誤差を完全に補償することはできないと述べられた.しかし,このシステムを取り入れてからは,その歯科医院での再製(作)も激減したとし,歯科医師から調整も少なくなったという評価も頂くようになったとのことである.これは軸間距離を合わせることにより誤差の中心にクラウンが位置し,リリーフによる間隙が多少の位置や角度のズレを補償しているものと考えていることを解説された.

 

3.【コバルトクロム(合金)で需要を伸ばす】

  また最近では,コバルトクロム合金を使用した補綴物に挑戦していると述べられた.独自の計測システムを駆使して大きな鋳造収縮(金合金1.5%に対しコバルトクロム合金2.4%)を補償する為に,事前に埋没材の混液比を設定し新たに取り組むコバルトクロム合金のワンピースキャストに挑んでいると説明された.しかしコバルト合金によるロングスパンワンピースブリッジの適合にはもう少しデータの蓄積と解析が必要であると述べられ,日々研究に取り組んでいるとのことであった.

  2000年以降,多くの歯科技工所や歯科医院において貴金属価格の高騰には困っているものと思われ,その値動きに振り回されることから脱却したいと考えている.

  そこでコバルトクロム合金の研究及び臨床活用において第一人者の重村 宏先生(大阪在住・歯科技工士)に師事して,積極的に現在取り組んでいるとのことである.

  また,人によってはコバルトクロム合金の安全性等を心配する方もいらっしゃるが,近年の研究では,コバルトクロム合金の生体親和性及び歯科材料としての安全性は,諸処のデータによって証明されており価格だけに止まらず比重をも考慮した圧倒的なコストパフォーマンスによって,患者さん・歯科医師・歯科技工士が多大な恩恵を受けることが出来ると解説された.その際,コバルトは元素単位の単体で使用するとニッケルに次ぐ頻度でアレルギー等が発現されるが,コバルトクロムの合金になると強固な不動態被膜ができて金属イオンの抽出が抑えられるようになる,これをISO16744:2003の規格に当てはめると10 μg/cm2week未満の溶出: very goodという成績を出していると様々なメーカーから販売されているデータを供覧して頂いた.

  また,埋没材・リング・フォーマー植立方法などの取り扱いを含む細かい独自のテクニックや,重村先生御考案のテクニックも併せて紹介をされた.

  さらにコバルトクロム合金を取り扱う上で,あると便利な器具としてプラズマアーク溶接機のクアサープラス[取り扱いデンツプライ三金㈱]の説明をされ,いずれコバルトクロム合金のロングスパンワンピースブリッジの適合テクニックも確立されるであろうが,それまでの間を繋ぐのに非常に有用な機器として紹介された.

 

4.【咬合の付与で再製(作)を減らす】

  宇佐美氏は約20年前に顎関節症の勉強会に参加し,そこでの体験が自身にとってその後の大きな潮流を作ったとされた.それは仮にブリッジを装着する際に,歯科医師・歯科技工士共に通常考えられる正確な診療や技工作業を行って口腔内に装着されたのにもかかわらず,患者さんから咬合が高いと訴えられ咬合面を口腔内にて削られるといったケースがままあるが,何故だろう?と考えた.原因としては対合歯の挺出なのか,歯根膜反射が過敏な反応によるものなのか分からなかった.そこで勉強会で顎関節には経時的な形態の変化があることを学んで下顎位は変化するということを実感したと述べられた.

  正常な状態と考えられる顎関節と,不適切な状態と考えられる顎関節とをしっかりと見極めるには,X線の顎関節規格撮影(最近ではCT撮影)を活用して下顎誘導を行うとして,これ要約するとその方法は以下の通りであると解説した.

1.診査・診察・診断の後,治療計画を立てる

2.現状における安定した咬合位(診断位)の確立

3.顎関節規格撮影

4.トレースと移動量の分析

5.咬合器へのトランスファー

6.下顎誘導のリハビリテーションのためのプロビジョナル

・ハードスプリント

・ダイレクトスプリント

・プロビジョナルタイプ(クラウン・ブリッジの形式)

7. パーマネントに移行

  上記のような診査診断と共に適切な咬合様式を付与するとのことと述べられた.現在様々な咬合理論や補綴材料があるが,その土台を担っている顎関節が根本であり,そこをしっかりと見つめ続けて行くと仰られて講演を締め括られた.

 

  今回の宇佐美氏の発表は,臨床の中でのトラブルや困ったことに直面し,実験やデータの収集を行い,またそれを臨床の中で確認し解決をしていった経験をひとつの理論として構築するといった内容であり,これぞまさしく“スタディグループの発表の王道”と思われる.思慮を深めたボリュームのある内容は講演発表としても,またこの先に論文化へと進むとしても堂々たる完成度を見せつけられ筆者は圧倒された.

  ただ最後に質疑応答の時間がとられたが,宇佐美氏が希望するような若い会員との臨床に即したディスカッションが少ないように感じた.このことは若い参加者の気おくれというより,会場座席のレイアウトや質疑応答時のスタイルが心理的にも抑制する方向に影響したのだろうと考える.筆者は,運営委員の中の会場担当責任者として強く反省を感じたのと共に,今後の課題として検討し解決を図るつもりである.

 

 

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