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「歯科材料の現状と将来展望」

第51回神奈川歯科技工ネット研究会レポート

 

『歯科材料の現状と将来展望』

株式会社ニッシン 新規開発部 部長  明田 喜仁 氏

 

レポーター:  小室英俊(株式会社 横浜トラスト歯科技工研究所)

 


 

去る平成27年5月22日(金),神奈川県歯科技工士会事務所大会議室にて,株式会社ニッシン新規開発部部長 明田喜仁氏による標記講演会が開催された.

 

冒頭に明田氏は2015年3月にドイツのケルンで開催されたIDS(第36回ケルン国際デンタルショー)の報告をすると共に,そこから自身が感じられた歯科材料業界の将来展望を語った.

 

 

―近未来の歯科産業界を予見―

DSCN1848.JPG特に歯科技工作業にかかわる部分では,口腔内スキャナーにより作業用模型の必要性が希薄化し,樹脂材料(義歯床・ステント・個人トレー等)は,3Dプリンターによる光造形法で製作されていくようになるのではないかとした.そして少し時間はかかるがレーザーミリングのような技術進化により,従来法ではミリングバーが入らないような超微細な技工物もデジタル的にできるようになるであろうと予見した.

 

また,Amanngirrbach社Ivoclar Vivadent社では,義歯製造システムのデジタル化から,そのミリングシステムを提案していたと報告した.そして,今後はインハウス方式のミリング装置が普及すると共に,その低コスト化・小型化の流れを強く意識したと述べ,多くの歯科技工士が懸念しているメーカー主導による歯科用CAD/CAMセンター方式も一本調子では進まないのではないかとの見通しを述べた.

 

更に新規義歯床用・歯冠修復用材料として以前から有望視されていたPEEK材についても,その特殊な素材特性を示し,材料コストの問題も絡んで今後の活用性には疑問を呈した.即ち,現在注目されている新材料・器材及び製作工程システムが一方向的に進展するとは限らないのではないかとまとめた.

 

 

―新規技術・新規材料の普及の動向―

次に歯科市場における“範囲の経済性”をメーカーの立場から考察し,歯科材料や歯科器材がどのように市場展開されていくかを独自の視点から解説した.技術の進歩により多くの材料・器材が考案されたが,氏は「単純に良い物は売れる!」ではないことを強調した.闇雲に新規性のあるものを製品化しても受け入れられない場合が多々あることを述べ,その要因を考察された.

 

逆に「患者に何故ノンメタルクラスプデンチャーが受けいれられたのか?」と展開し,それは患者が感覚的にその良さを見て聞いて理解できると共に,審美面且つ経済面でも合致したのではないかと推測した.義歯の料金体系に所謂,「松・竹・梅」ができ,保険治療ではアクリル樹脂,高額な自費治療では金属床の区別だけだったところに,金属床より価格設定が安いノンメタルクラスプデンチャーがマッチングし,需要が喚起されたとの具体例を掲げた.

 

 

―市場としての歯科技工業界―

更には歯科技工所経営者を顧客とした場合も経営者の購入意図は皆同じではないとし,現状の技工業界では大半が小規模技工所(技工所全体の93%が三人未満の歯科技工所である)であり,大規模技工所との材料・器材の購入目的が違うと述べた.

 

現状では歯科技工士の高齢化が進み,歯科技工士が減少している中,歯科技工所は増加しているという歪な業界構造が形成されつつあり,経済システムの成立の難しさを語った.そのような現状に対してメーカー側としては顧客ターゲットをどうするか,どのように様々な顧客セグメントに応じていくのかを検討することが大切であるとした.

 

また近年では1999年と比較すると上位25社の売上が約2倍に増え,マーケットに占める大手技工所の売上比率が増えている点を付け加えた.いずれにしても今後は人手不足が顕著になるため,省力化し,生産効率を上げるために機械化をせざるを得なくなってくる.これからは資金力がないと経営が成り立たないという厳しい局面もでてくるのではないかとの見解を示した.メーカー側としてもそのような背景に起因した歯科技工所の集約化に伴い,材料・器材市場が狭まる可能性があるとも述べ,販売面での厳しさが窺えた.

 

DSCN1844.JPG 

―マーケティングと経営戦略― 

加えて,マーケティングとは市場ニーズに応じて利益を上げることであり,色々な顧客がいる市場のどこにターゲットを置くか,4P=【製品(Product)・価格(Price)・流通(Place)・プロモーション(Promotion)】のフレームワークが大事であり,更には外部分析や内部分析を行って,自社にとって最適な市場を見つけ,その戦略課題を決定することが必須であると説明した.

 

また,顧客をどれだけ知っているかが常に問われているとも併せて述べた.例えば,高齢の歯科技工士がこれから歯科用CAD/CAM装置を導入するのか?あえてそれらの装置を購入しない歯科技工士も少なくはないと考えられる.そのような視点で捉えると従来の製作工程にマッチしたマーケットもあるはずであるとし,市場を多元的に見ることの重要性を示した.

 

筆者自身は歯科技工業界がデジタル化により大きく変化していることは理解しているが,今回のような話を聞いたことで,経済的視点と技術的動向とを併せて考えていくことが重要であると強く感じた.

 


 

株式会社ニッシン

 

センター方式とインハウス方式(デンテック・インターナショナルWebsiteより)

 

マーケティングの4Pとは(中小企業診断士の木村和徳様<潟上市商工会>のHPより)

 

マーケティングの4Pとは(N's spirit.投資学&経営学研究室のWebsiteより)

 

 

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