ホーム  >  研究発表報告  >  「SWOT分析による地域連携歯科技工ネットワークを主体とした今後の事業展開」

「SWOT分析による地域連携歯科技工ネットワークを主体とした今後の事業展開」

第15回神奈川歯科技工ネット研究会

「SWOT分析による地域連携歯科技工ネットワークを主体とした今後の事業展開」


オグラデンタルエクスペディション(O. D. E.)代表         小倉  洋

______________________________________________________________________________

 去る平成23年6月17日(金),かながわ県民活動サポートセンター会議室307号室において第15回神奈川歯科技工ネット研究会の定例会が開催された.
今回は「SWOT分析による地域連携歯科技工ネットワークを主体とした今後の事業展開」のテーマで 藤田耕介氏(株式会社 横浜トラスト歯科技工研究所代表取締役)が会員発表された.その後 「~地域連携歯科技工ネットワークを主体とした今後の事業展開~」をテーマとしてしディスカッションを行った.
 当日の参加者は12名.小さい会議室は満員になり,また今回よりのどを潤すお茶をご提供させていただいたことも相まって,学生時代の話に花が咲くなど和気藹々とした雰囲気のなかプレゼンテーションが始まった.

 

swot714.jpg藤田氏は初めに,私たち歯科業界ではあまり馴染みのない「SWOT(スウォット・スワット)分析*」とはどの様なものかを説明し,組織体の目標達成のための内的要因-【強み Strengeth】と【弱み Weakness】,外的要因-【機会 Opportunity】と【脅威 Threat】の4項目の要因の軸から分析・判断するという“代表的な経営戦略ツール”であると述べた.これらの因子は目標達成のための好影響の要因-【強み】と【機会】,悪影響の要因-【弱み】と【脅威】というカテゴライズも成り立ち,因子間を相互に多角的に分析できる.藤田氏は,今回のテーマのなかにある「地域連携歯科技工ネットワーク」を早急に事業体として何かを行おうとするものではなく,“仮に”この事業体を主体とした際に何を強みとして市場に参入できるか,また克服すべき弱みとは何かなどをシュミレーションしながらSWOT分析の活用法を学んでいきたいと考えていると語った.

 

 続けて,「地域連携歯科技工ネットワーク」を考える上で知っておきたい事として,ここ数年政府による産業クラスター*戦略や知的クラスター戦略といった施策が実施されていることから産業集積の研究が改めて注目されているとした.産業集積の類型や枠組として,地理的に接近した特定の地域内に多数の企業が立地するとともに,各企業が受発注取引や情報交流,連携等の企業間関係を生じている状態のことを産業集積と呼ぶ.産業集積はその形成の歴史的背景や,特徴によっていくつかのタイプに類型化することができるが,(1)企業城下町型集積(2)産地型集積(3)都市型複合集積(4)誘致型複合集積などに大別できると述べた.

 

(1)企業城下町型集積
 特定大企業の量産工場を中心に,下請企業群が多数立地することで集積を形成.代表的な地域としてはマツダ株式会社を中心とする広島地域,トヨタ自動車株式会社を中心とする愛知県豊田市周辺地域などが挙げられるとした.

(2)産地型集積
 特定業種に属する企業が特定地域に集中立地することで集積を形成.地域内の原材料や蓄積された技術を相互に活用することで成長してきた,代表的な地域としては金属洋食器,刃物の新潟県燕・三条地域や眼鏡産業の福井県鯖江地域が挙げられるとした.

(3)都市型複合集積
 戦前からの産地基盤や軍需関連企業などを中心に,関連企業が都市圏に集中立地することで集積を形成.機械金属関連の集積が多く,集積内での企業間分業,系列を超えた取引関係が構築されているケースも多い.代表的な地域としては東京都城南地域,群馬県太田地域などが挙げられるとした.

(4)誘致型複合集積
 自治体の企業誘致活動や,工業再配置計画の推進によって形成された集積.代表的な地域としては岩手県北上川流域地域,山梨県甲府地域などが挙げられるとした.

 

 上記のような産業集積による経済効果のメリットとしては,規模効果・統合効果・累積効果・競争効果などを得ることができるとし,この産業集積の概念をさらに発展させたものを産業クラスター戦略と位置づけ,長引く経済不況のなかで新しい産業や技術革新を継続的に生む基盤として政府が積極的に推し進めていると紹介した. このようなことは現在の企業間競争が大きく変化したことに起因し,競争の激化によって収益性の高いビジネスモデルを独占できる期間が短くなっていっていることにより競争の優位性を維持できなくなっている現状から派生した.そこで大学などの先端研究機関と中小ベンチャー企業が連携し製品化するとしたイノベーション*を促進していくとしたビジネスモデルが主流になっていると説明した.


 実際に私たち歯科技工業界の連携としては,今までも金属床のフレームなどで分業形態が既にあり,また最近でもジルコニアコーピングなど多額の設備投資を必要としているものや,インプラント・矯正分野などでその専門性や特殊性による連携スタイルや,また営業力の強いラボが営業力の弱いラボに受注調整のために二次受けスタイルを確立しているのも見受けられるとした.
しかしながら,今後の歯科技工業界における連携も外部環境の変化(コンプライアンス遵守強化・社会規制強化・情報化・グローバル化)などの脅威に晒されることを踏まえ,ラボが独自性を担保しながらも外部の経営資源をお互いに補完し合うといった,今までとは意識の違う「生き残るための提携戦略」が必要となるのではないかと解説した.

 

 藤田氏はSWOT分析を行う上で,仮に「地域連携歯科技工ネットワーク」の概念を『未来志向の歯科技工ネットワーク構築による共通ブランドを意識した地域連携体』と定義してSWOT分析を行うものとするとした.
具体的には,【強み】として事業共同体の規模効果による高額機器の購入,ネットワークの構築による情報強化・受注分散や調整,協同組合的な材料等の一括購入による経費削減,人材交流による人材・技術の確保など.【弱み】としては各社の技術レベルの平準化,資金管理の方法,業界の慣習等など.【機会】として 離職率の高さ,人材不足,高齢化社会の歯科市場の拡大,デジタル化,デンタルIQの向上(情報の一般化),業界の再構築,設備構造基準など.【脅威】 として海外歯科技工物の日本市場参入,大手ラボによる営業拡大路線,歯科技工士国家資格変化の可能性,他業種からの参入,景気の冷え込み,グローバル化,最新技術の陳腐化,環境規制などを挙げた.


 実際SWOT分析の理解を深めるために少し項目を絞ってフレーム上に並べ,神奈川歯科技工ネットワーク事業の【強み】-情報ネットワークの構築・質の良い人材の確保,【弱み】-技術レベルの平準化・資金管理【機会】需給バランスの変化など,【脅威】-海外からの市場参入・他業種の参入,などを分かりやすく丁寧にクロス分析を行っていった.さらに歯科技工業界に身近に起きたイノベーションの一例として,Ivoclar Vivadent 株式会社のIPS e.maxを例にとりヨーゼフ・シュンペーター*のイノベーション理論を解説した.

 

 藤田氏の発表の後は2グループに分かれてグループディスカッションを行い,各グループの代表者がグループごとの結論を発表した.

 

Aグループ発表者:土田康夫 氏(株式会社 横浜歯研)

今回SWOT分析を行ってみたが,これを仕事にどう生かすかということも大切だが良い形でこれを超えるようなことをしていくべきではないか.それにはどのような形で神奈川歯科技工ネットワーク事業をまとめていくのが良いのかと考えた.私自身としては,個々の事業体が得意分野や強みに磨きをかけていくべきではないかと感じた.

 

Bグループ発表者:西山仙次 氏(株式会社 湘南デンタルラボラトリー)

このグループとしては様々な話は出たが,実際の結論を出すまでに至らずまとまりに欠けた.企業間で連携をしてブランド化などを行っていく際などに,財務内容や福利厚生の面など一つ取り上げてみてもまだまだ,各ラボ間のコミュニケーションの必要性を多大に感じた.

 


 藤田氏の丁寧に理論構築された発表を拝聴し,またグループディスカッションを通じて楽しくSWOT分析を行ってみると,この手法を使いこなすとまではいかないまでも,自社の分析や方向性の決定に対して大いに活用できることを学んだ.今まであまりなじみの無かったSWOT分析も興味を持ってインターネット上で検索してみると,大きな病院において看護師等が業務内容のSWOT分析をして発表をしているのを閲覧し,さらに理解を深めるのに役立てることが出来たことをご報告する.これを機に参加してみたいと感じた企業の方はどうぞお問い合わせ下さりまして私たち達と共に研究活動にご参加下さい.


_______________________________________________________________

 

「SWOT分析」(スウォット・スワット分析 SWOT analysis )
目標を達成するために意思決定を必要としている組織や個人の、プロジェクトやベンチャービジネスなどにおける、強み (Strengths)、弱み (Weaknesses)、機会 (Opportunities)、脅威 (Threats) などを評価するのに用いられる戦略計画ツールの一つ。組織や個人の内外の市場環境を監視、分析する。フォーチュン500のデータを用いて1960年代から70年代にスタンフォード大学で研究プロジェクトを導いた、アルバート・ハンフリーにより構築された。
【ウィキペディアより抜粋】

 

「産業クラスター」(industrial cluster)
クラスターとは、本来ぶどうの房を意味しますが、転じて群や集団を意味する言葉として用いられています。産業クラスター計画とは、地域の中堅中小企業・ベンチャー企業等が大学、研究機関等のシーズを活用して、IT、バイオ、環境、ものづくり等の産業クラスター(新事業が次々と生み出されるような事業環境を整備することにより、競争優位を持つ産業が核となって広域的な産業集積が進む状態)を形成し、国の競争力向上を図ることを目指す計画(施策)です。
産業クラスターの形成にとって最も重要なキーワードは、イノベーションです。イノベーションとは技術革新とも言われますが、具体的には新たな技術やアイデアをもとに競争力ある製品、商品を市場に送り出し、経済社会に大きなインパクトを与えることを言います。
イノベーションを次々に創出できる環境を地域に整備することが産業クラスター計画の基本です。経済産業省では、そうした環境整備を通して、新たなベンチャー企業や世界に通用する中堅・中小企業等からなる産業クラスターが、地域に形成されることを目指しています。
【経済産業省 経済産業政策局 地域経済産業グループ 産業クラスター計画推進室 HPクラスターWEBより抜粋】

 

「イノベーション」(innovation)
物事の「新機軸」「新しい切り口」「新しい捉え方」「新しい活用法」(を創造する行為)のこと。新しい技術の発明だけではなく、新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会の幅広い変革である。つまり、それまでのモノ、仕組みなどに対して、全く新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出し、社会的に大きな変化を起こすことを指す。
【ウィキペディアより抜粋】

 

「ヨーゼフ・アーロイス・シュンペーター」(Joseph Alois Schumpeter)
1883年2月8日 - 1950年1月8日)は、オーストリア・ハンガリー帝国(後のチェコ)モラヴィア生まれのオーストリアの経済学者である。企業者の行う不断のイノベーション(革新)が経済を変動させるという理論を構築した。
【ウィキペディアより抜粋】

 

「近未来の歯科医療」-2011年IDS(第34回 国際デンタルショー2011/ケルン)報告- 研究発表報告 「これからの歯科技工界を思う」 ー仁科匡生 先生御講演ー
メニュー
  • トップ
  • 会員紹介
  • 歯科技工ネットとは
  • 研究発表報告
  • 次回セミナー情報
  • 技工コラム
  • お問い合せ