「経営視点で学ぶ ~歯科CAD/CAM(ノーベルバイオケア・幕張プラント)による生産現場~」
第20回神奈川歯科技工ネット研究会
「経営視点で学ぶ ~歯科CAD/CAM(ノーベルバイオケア・幕張プラント)による生産現場~」
株式会社 デンタルアクト 山室拓也
多様なテーマで行われ,その度に新たな発見ができる「神奈川歯科技工ネット研究会」におけるセミナー.今回はワールドワイドに活躍するビジネスパーソンや大型精密マシンを目の当たりにし,参加会員全員がその光景に瞠目することになる….
去る11月18日に行われた第20回セミナーでは,世界で4箇所目となるノーベルプロセラ・プロダクションセンターの見学会に会員18名が参加して開催された.この生産施設はアジア圏初のプロセラ製品の供給拠点として2007年9月に千葉県習志野市に開設された.先ずはその見上げれば首が痛くなる様な建造物からしてすべてが違うのに驚いた.「プラント」と呼ぶに相応しいだけの大型機械・生産設備ですから当然かもしれませんが,こと日本国内に於いてこの規模の技工物生産施設は間違いなく存在しないのではないでしょうか.
ノーベルバイオケア社はスウェ-デンで設立された歯科審美修復製品の総合メーカーであり,世界35ヵ国に販売ネットワークを保有するグローバル・カンパニーである.歯科修復物に於いては業界初の歯科CAD/CAMを製作工程へ取り入れたNobel Procera™ソリューションの製品群を提供しています.
まず始めに講習室にてノーベルバイオケア社の佐々木様,神奈川県営業担当の豊川様から会社沿革,現在展開しているプロセラ製品に関する細かな説明をスライドと実際のスキャナー(ジェニオン)を設置使用した映像を見ながらのレクチャーがありました.今現在時点における御社のポテンシャルの高さ,流石に業界リーダーだと思わせる商品展開とアフターサービスの内容に大きく頷いた後,全員が衛生衣を纏い,いよいよ工場内見学です.
見る物すべてが斬新,工場内に入った瞬間から「異文化?」「別世界?」カルチャーショック!!
目に飛び込んでくる光景は自分が知る歯科技工所のイメージとはかけ離れたものでした.総床面積が約5,441㎡の3階建て(テニスコートが何面とれるのか…?).1階フロアーはインプラントBrやオーバーデンチャーのバーまでもこなすCAMが整然と並び,3階フロアーでは単冠コーピングやBrフレームワークの大型CAMが1階同様に忙しそうに稼働,その一台一台の大きさがまた半端ではありません.中にはワンボックスカー程の大きさもあるCAM機が総数30台以上….圧巻です.
その大仰な機械が並ぶ生産ラインを目の当たりにし“トヨタ生産方式”が自分の頭を過りました.「JIT(Just In Time)・カンバン方式・自働化・見える化・改善・7つのムダ」など,本で読み自分の想像の世界であったものがオーバーラップし眼前に広がっていました.勿論,CAD/CAM技術そのものは自動車業界,電器産業界などの他業種からフィードバックされたものであり,他業界ではこのような大規模な施設が国内に星の数ほどある事でしょう.ただ,今ここにある大型CAD/CAM類はすべてが紛れもなく歯科技工物を製作する為だけにあるマシンなのです!
今後の歯科技工所の在り方の一つに,トヨタ生産方式のようなフレームワークを組入れた論理思考が求められ,生産現場である技工所の成長に併せ効率的にノウハウを浸透させてゆくようなインフラストラクチャーの仕組み構築が必要になってくると連想させられます.
アルミナコーピングの焼成・焼結ライン,ロングスパンのジルコニアのマシニング削り出し,チタンインゴットからのNC加工などの実際を目の当たりにして,Manufactureとも言うべき生産ラインの整然とした光景はとても印象的でした.また,オセアニアを含むアジア全体の顧客を相手にするここ幕張のプロダクションセンターには,精度のコントロールに対するカスタマーからの評判が良いということで,米国や本国スウェーデンのプロダクションセンターからも現場技術者が適合精度向上のために研修に来たとのことでした.これも「メイドインジャパン」の面目躍如といったところでありましょうか.
神奈川歯科技工ネット研究会に於ける今回のノーベルバイオケア・ジャパン幕張プラント見学会では一通りの生産ラインを拝見させて頂いた直後にインスパイアされ,何時ものセミナー後如く同様に自分のモチベーション,意識は高揚しました.また,秘密主義でベールに包まれた会社とは違い,ノーベルバイオケア社のオープンな企業姿勢に器の大きさと歯科用CAD/CAM界のリーダーたる所以を感じるとともに深い感銘を受けました.
◆追伸
“3K職”と呼ばれだしてから幾年か….最近ではまるで歯科技工士という道は“デスマーチ*”と囁かれるほどの深刻な歯科技工士の労働環境問題.その要因として浮き彫りになっているのは圧倒的な割合のワンマンラボと少人数ラボの実態.保険の仕事をメインにすれば納期の短縮やダンピング競争に巻き込まれ自転車操業になりかねない,自費の仕事を主にしても短い納期や低料金は勿論それにプラスで仕事量不安定という要素が加わってくる.数十人規模以上の歯科技工所に関しても,社会的に企業としては当然の義務であるコンプライアンス(労働時間,社会保険・厚生年金加入等)-法令順守をクリアーすることさえも各社難渋する状況.
確かに厳しい.が,しかし下ばかりを向いているわけにはいきません.
今回見学させて頂いたノーベル社といえども試行錯誤の積み重ねの結果,今の姿があるのだろうと推考します.迫り来る近未来に於いて,CAD/CAM-自動化の流れは日本の保険制度に適用したものや,義歯分野にまで至らないとも限りません.どの様なかたちにせよ,ほとんどの歯科技工士がCAD/CAM技術・操作に携わることを念頭に置く必要があるでしょう.歯科技工を業としている以上,他のラボを羨んだりただ指をくわえて見ているわけにはいきません.ノーベル社を目標とするには漠然と大き過ぎるかもしれませんが,ラボの規模の大小に関わらず「設定目標に向かって邁進」あるのみです.
神奈川歯科技工ネットのような仲間とのスキルアップ,毎回ごとの違うテーマやトピックについて学ぶ時間(一例として昨今のIT歯科技工業界の速度《進度》に合わせた仲間同士のプロジェクト思案)など,毎回々自分自身大きな収穫になっている.クライシスマネジメントの観点からも,例えば他業界大企業の参入など,いつ何時歯科技工業界がひっくり返るような変革が起こらないとも限らない昨今,神奈川歯科技工ネットという場で各社代表がお互いにイメージを想起させインスピレーションを得ることができる機会を持てるというのは非常に有益なことであり,設定目標自体のレベルアップの場になっています.
ノーベルバイオケア・ジャパンの各位様と神奈川歯科技工ネット研究会会員の方々に深謝します.
「デスマーチ」 【death march】
「死の行進」という意味の英語表現。IT業界ではシステム開発現場の過酷な労働環境を表す言葉として使う。
人員不足、短すぎる開発期間、予算不足、ユーザからの過剰な要求などの悪条件が重なり、開発チームが過度のオーバーワークや疲弊状態に陥った状態がデスマーチである。体調を崩したり鬱病にかかるなどしてメンバーが減っていくため、残ったメンバーの環境は余計悪化する。経験者によれば過労死や自殺も珍しくないと言われ、あまり洒落になっていない表現である。
もともと、軍隊での過酷な訓練のことを "death march" と呼んでいたが、Edward Yourdon氏の「Death March: The Complete Software Developer’s Guide to Surviving "Mission Impossible" Projects」(邦題:デスマーチ - なぜソフトウエア・プロジェクトは混乱するのか)で、混乱したソフト開発現場を "death march" と表現したことから、IT業界で一般的に用いられるようになった。
ちなみに、同氏はデスマーチ・プロジェクトを「多大な犠牲と損失、もしくは高い確率での失敗が予測されるプロジェクト」と定義し、ソフトウェア開発においては日常茶飯事であるとしている。その要因として社内での政治力学、経営手腕、プロジェクト管理能力、市場の国際化や新技術の登場などを挙げている。
【IT用語辞典 e-Words(株式会社インセプト)より引用】