「日本歯科技工学会 第34回 学術大会」に参加して
「日本歯科技工学会 第34回 学術大会」に参加して
アルモニア 傳寳弥里
去る9月15日,16日の二日間,ママカリフォーラム(岡山県岡山市)において日本歯科技工学会 第34回学術大会が開催された.台風の接近で天候が危ぶまれたが両日とも晴天に恵まれての開催であった.
今回は「歯科医療におけるパラダイムシフトと歯科技工」をテーマに特別講演1題,基調講演1題,企画シンポジウム2題,教育シンポジウム1題,デモンストレーション11題,テーブルクリニック17題,ポスター発表79題が発表された.
神奈川歯科技工ネット研究会としては初めて,研究をポスターという形にして発表する事が出来た.
(SWOT分析を用いた中小歯科技工所の地域連携による事業戦略試論).pdf
筆者は発表したポスター発表の質疑応答の時間以外は興味をもった演題の発表を聞くことができた.聴講した演題は以下の5題である.
1.企画シンポジウムⅠ『アナログとデジタルの融合に歯科技工の未来が見える』
2.教育シンポジウム 『歯科医療のパラダイムシフトに対応した歯科技工教育はどうあるべきか』
3.特別講演 『補綴修復治療を成功へと導く戦略的マネージメント』
4.テーブルクリニック『インプラント上部構造マテリアルの変革「チタンセラミックの有益性」』
5.企画シンポジウムⅡ『修復治療を成功に導くためのチーム医療とメンテナンス』
『今,新時代における修復治療と歯科技工士・歯科衛生士の関わり』
この中から,歯科技工所経営者の立場として注視しなければいけないことながら,あまり触れる機会のない歯科技工学校における教育カリキュラムについて発表のあった教育シンポジウムについて報告する.
専門学校から4年制大学化,短大化した3校の教員が順番に自校の教育方針とカリキュラム等について説明した.演者は,広島大学歯学部口腔健康科学科口腔工学専攻より二川浩樹先生(広島大学歯学部副学部長・広島大学大学院医歯薬保健学研究院 統合健康科学部門 口腔生物工学分野教授),東京医科歯科大学歯学部口腔保健学科口腔保健工学専攻より鈴木哲也先生(東京医科歯科大学歯学部口腔保健学科口腔保健工学専攻口腔保健再建工学講座口腔機能再建技工学分野教授・口腔保健工学専攻長),明倫短期大学歯科技工士学科より野村章子先生(明倫短期大学歯科技工士学科・専攻科 生体技工専攻教授).
『広島大学歯学部口腔健康科学科口腔工学専攻』
平成17年(2005)に全国で初めて4年制の歯科技工士養成機関として設置された.さらに平成21年(2009)に広島大学大学院医歯薬学総合研究科口腔健康科学専攻として大学院修士課程が設置され,平成23年(2011)には口腔健康科学専攻(博士後期課程)も設置された.口腔工学分野を新たに確立するために,「高度な医療スキル」,「Bio Dentistry」,「Digital Dentistry」という3つの観点から学生教育をし,教育者・研究者の人材育成を行っている.
遺伝子組換え講習や組織培養実習,オペ支援モデル作成の臨床実習やオペのカンファレンス参加などの実習を取り入れている.
医学部とのコラボレーションを行なっていることもあり,総合4年制と6年制教育とのギャップを感じ始めているとおっしゃっていたが,設立から7年経ったこともあり,カリキュラムがしっかり組め,そして実践してきたからこその言葉だと感じた.
歯科技工士学校が4年制になってどんな勉強をしているのかと思っていたが,再生医療や外科のオペに係わる勉強までしているとは思いもしなかった.卒後,歯科技工の職に就いた学生もいたというが,勉強した事を生かそうと思うと今の歯科技工所では無理であろうと感じたし,雇う方としても持て余してしまう気がした.
『東京医科歯科大学歯学部口腔保健学科口腔保健工学専攻』
平成23年(2011)に全国で2番目の4年制歯科技工士養成機関として設置された.「歯科技工の技術だけに偏るのではなく,幅広い知識と専門的技能を有し,多方面で活躍出来る人材の育成」を目標とし教育を行なっている.
医歯学融合教育として4年時に医学科,歯学科,保健学科,口腔保健学科が全体で一つの課題に取り組むカリキュラムが設置されている.
まだ,開設2年目とあってカリキュラムも手探りで模索している状態だとおっしゃっていた.現在15名の生徒に対し9名の教員で個別指導が可能になっている.企業,工場見学や近隣アジアの歯科技工士養成機関との交流など,学生が楽しそうに学校生活を送っている写真が映しだされ,微笑ましく思った.
鈴木先生は「世界一の技工士を創ることが目標」と繰り返しおっしゃっていたが漠然としていてよく解らなかった.入学者へのアンケート調査では卒後進路として歯科技工所,歯科医院をチェックしたものは僅かだったそうだ.
『明倫短期大学歯科技工士学科』
平成9年(1997)に旧 歯友会歯科技術専門学校から歯科医療系として初めて私立短期大学に昇格.平成11年(1999)には専攻科生体技工専攻が設立された.専門知識と技術の修得に偏らず,歯科衛生士教育とのコラボレーションのもとで口腔の健康と維持管理にも貢献出来る医療人の育成を目指している.専攻科では,症例技工に重点を置いた実践的な技術指導およびマネジメント力を備えた人材育成を目指している.
「歯科医療チームに加わるための人間力の向上」,「技工物の品質管理」などを学ばせる特色のある講義や実習がある.
従来の技工士学校に近い感じがしたが,国家試験合格を目指すだけの勉強だけでない短大ならではの,きちんとしたカリキュラムが組まれている.学内のトレーニング後,試験にパスすると近隣の協力技工所にインターンシップ出来るなど,学外実習を行なっていることは面白いと感じた.卒後進路は歯科技工所を希望するものが多いという.
新入社員を雇用する時にあまり出身校を気にすることはないように思う.もちろん,その人となりが重要であることにかわりはないが,今回3校の話を聞いて,どんな内容の勉強が出来る環境で過ごしてきたのかを知った上で入社試験をする必要があるように感じた.雇用する側としては個人的には明倫短期大学のカリキュラム内容に興味を感じた.
歯科技工業界が今後どのような形態にパラダイムシフトしていくのかはわからないが,2大学のカリキュラムは既に現在の歯科技工業界からはパラダイム(paradigm)をシフト(shift)している.すべてが再生医療やCAD/CAMで対応出来るとは思えないし,出来たとしても必ずそこに人の手が入って調整するのだと考えるが,従来の職人技だけでは対応できないことも事実であろう.私たち歯科技工所経営者も旧来の歯科技工に囚われない柔軟な感覚でパラダイムシフトしていかなければならないと感じた.
来年の第35回学術大会は第5回国際歯科技工学術大会,第49回大韓民国歯科技工士学会,第17回アジア太平洋地域歯科技工士連盟協議会と併催として,韓国は大田市の大田市国際会議場(テジョン コンベンションセンター)で2013年7月5日(金)~7日(日)に開催される予定である(写真は1st circular).
「パラダイムシフト」
その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想,社会全体の価値観などが革命的にもしくは劇的に変化することを言う.パラダイムチェンジとも言う.
Wikipediaより抜粋