平成24年度・特別講演会「私が歩んできた経営」~道と術~
第28回神奈川歯科技工ネット研究会
平成24年度歯科技工ネット研究会 特別講演会
「私が歩んできた経営」~道と術~
有限会社 協和デンタル・ラボラトリー 代表取締役 木村健二氏 御講演
株式会社 横浜歯研 石川敦之
街に秋の装いが深まり少し肌寒さも感じる10月19日,第28回神奈川歯科技工ネット研究会・平成24年度特別講演会が神奈川県歯科技工士会事務所大会議室にて執り行われました.外の寒さなど吹き飛ばすほどの盛況な参加者数に,初参加となる自分は少々戸惑いを感じるも,これだけの参加人数を集める神奈川歯科技工ネット研究会主宰である藤田氏には底知れぬ行動力と人脈の広さ,懐の深さを感じました.
今回このレポートを引き受けさせて頂いた際に,木村社長の演題と抄録を見て早速インターネット等で調べさせて頂きましたが,その素晴らしいご経歴や数々の社の受賞暦などを拝見して,その経営手腕や人心掌握術に対して大変興味深く感じ入り,この講演会に臨みました.軽い気持ちで本稿執筆の依頼を受けたことを後悔する暇もないまま,定刻より少し早い時間ながらも講演会が始まった.
プロローグ
木村社長は自社の説明をされた.社員数47名.インプラント上部構造を主体にやってきたラボで,ここ数年はCAD/CAMに力を入れているということです.社長は,週に一回日大(日本大学歯学部付属歯科技工専門学校)で教鞭を執って(非常勤講師)いること,とまさに“成功者然と感じさせる”現在の活動の原点も,幼少期から中学期にかけた環境の変化などをきっかけに,”良い人とだけと付き合っていく”という見極めの難しいことをやってきたと言う.
ようやく動き出したKeynote(プレゼンテーションソフト)には等間隔に並んだ数本の平行線があり,その間に間隔や太さがバラバラになった情報と言う名の線が入ると最初の真っ直ぐだった線が錯視でゆがんで見える.材料屋さんの場合などを例に取り,間違っていたり大げさだったりの情報を正確に汲み取る必要性があると説いた.ここに社長のいう良い人間とだけ付き合っていくと言うことが集約されているのかと感じた.
――要するに,詭弁を弄したり,勘違いを誘発する様な情報に対しても常に真実を見抜く洞察力が必要だというところでしょうか.
次に,同心楕円状に階層化した概念図のスライドを示されながら,「世間一般に,大企業・中堅企業・中小企業・家内工業・内職とありますが,自社はやっと家内工業から中小企業というところ.しかしいかがでしょうか.世の中の歯科技工所の中には,私も過去にはそうでしたが『仕事があればやる.なければ休む』という,言わば“内職”レベルの仕事をしているところが多いのではないでしょうか?」という辛辣な問いかけがあった.
いわゆるカリスマ化された様な技術偏重の歯科技工の形態は,それはそれであっても良いが,システム化(継続的に成果 / 結果を導く仕組み)がなされていなければそれは企業(会社)とはいえないという言外の意味である.
また,若かりし頃から現在までの社長の軌跡は,有名なマズローの欲求5段階説の譬えでいえば全く逆のピラミッド,最初に「自己実現の欲求」の充足段階より目指したことへの反省と自負心とがあるとのことでした.
ひとつの図
一本の垂直に伸びた太い矢印,それを中心に螺旋状に巻きつくようにしながら上昇していく矢印.真っ直ぐに垂直に伸びた矢印は道徳(道)とされていて,かたや取り巻く螺旋状の矢印は方法(術)とされていた.
――小手先の経営(術)よりも経営(道)の方が大切で,この道さえ踏み外さなければという王道であるとされた.巷にはとかく「術」が氾濫しているのであるが,理念(道)なき経営は一時の隆盛を誇っても続かないという意味の譬え話でした.木村社長の今回の講演内容の要諦はこれに尽きると表現されていました.……言われて,画面に垂直に伸びる矢印とそれに後からついてくる螺旋をその場でしっかりと脳裏に焼き付けました.
生き残るために何が必要なのか?
1.環境の変化(情報)を認識する
2.戦略を明確にする
3.戦術を立てる
木村社長は毎年「全国経営者大会(主催:日本経営開発協会)」に参加し,世界規模で今後の経済動向の予測を勉強しているそうです.積極的にいつも前列に陣取るのだそうです.世界情勢から今後の日本が取るべき行動を選択し,内閣府の消費動向調査などから国内の経済動向の推移を観察する.
これらをふまえた上で歯科診療所数の減少や年齢別の技工士数など歯科界の情勢を分析し,歯科技工所の機械化などを図り,また取り引きの主たる顧客である歯科医師と総合的に対応できる人間力を持った人材育成が大切だと判断している.協和デンタルの社員採用の条件として一番重要視されるのは個人の「性格」だそうだ.
「戦略を明確にする」という段のところでは,5~6年前に導入されたと言うCAD/CAMを例に見立てて説明された.耐久消費財の世帯普及率においてはキャズム理論というのがあり,新技術製品の普及率が16%を超えると新技術や新流行は急激に拡がっていくとしている.我々の業界においてはこのCAD/CAMの普及率も16%超えも近いとのことであった.
新しいものを導入する決断の際には,特に古参の人たちの同意は得にくいものである.そこでの木村社長の取った戦略の選択は意外なものだった.
「嫌ならばお辞めいただく」
本来であればそういった選択はしたくないのだろうが,痛みを伴わなければ改革もない.先へと前進するための作業なのだと心を鬼にして決断を下されるそうです.
新社屋へと再移転した後の遊休していた既存の社屋の,「専従のCAD/CAMセンター化」を次のステップとして考えて実現しておられるとのことでした.
ITmedia株式会社 オルタナティブブログ「破壊的イノベーションでキャズム越え」より引用
2・6・2の法則
2割のがんばる人
6割の言えばやる人
2割のがんばらない人
組織における一般的な個々人のモチベーションの差をこう表わしている.協和デンタルでは社会における自社の役割を"患者様に喜んでいただくこと"と規定している.組織の目的を正しく伝え,それが社員にとって価値のあるものでなければならないと考えたときに,大量生産のラボにするか?付加価値の高い技工物を作るラボにするか?という命題に明確な指針を示す必要にせまられた.そこで幹部社員同士で議論して頂き,自分たちの社の方向性は高付加価値型で行くという決定をして貰ったそうです.
経営理念を立て,社員の方向を一つに向かわせる.2・6・2の法則を脱却し,もっと社員全体の意識を高くする努力が必要だとのことでした.
報・連・相
巷間昔からある,組織に必要不可欠な〔報告・連絡・相談〕の略語.社会において組織
活動をする際に使われる言葉だが,木村社長はこれをさらに掘り下げた.
報告(義務)…上司の関心事に合わせてするもの
連絡(気配)…相手の欲しいことを欲しい時に言う
相談(問題)…人の力を借りて自分が成長するチャンス
なぜ正しい「報・連・相」が必要なのか? それは 会社が100%のポテンシャルを発揮するため.連絡では言った言わないというところから単純なミスが誘引され発生する.言ったかではなく伝わったかを確認することが重要と説く.また,お礼の言葉は早く言うことが大事だということ.
相談は時間に余裕を持って相談する(ギリギリはダメ).結果の報告とお礼を忘れずに.この二つの中では,意識してお礼を申し上げることを重要視し特に強調されていた.
正しい伝達とコミュニケーションで会社の力を100%発揮するためにこれらを推奨されていた.
社員共育
社員がなぜ辞めるのか…
絶対に辞められないのが社長.ならば「社長が求める社員像に焦点を合わせる」という結論に至る.会社のビジョンに沿った社員に“共育”すること.それは社員が社員を教育し社員同士の一体感を得ることに繋がる.
社員同士がお互いを高めあい,テクニック(技術)以外の社の精神や理想を共有していくことで,互いを知り一体感を求める.ことさらに「教育」と表現しないでわざわざ「共育」と表わしたのもなるほどと頷ける.
今回の木村社長の御講演の中で強調されたことは,“道徳”.社員の思いを受け止め,指針を示し社員の目標を統一して同じ方向を向く.ゆるぎないその意思が力強く天に昇っていけばそれが道となり軸となる.そしてその周りを術が追いかけてくる.
軸が歪めば全体が歪む.
社長の思いは社員に伝わりそれが礎となって会社が大きく逞しく成長していくのだと思う.逆に社長と社員とが思いを共有できていないのだとすれば,その礎は脆く弱いものになってしまうのだろうと感じた.
最後におっしゃっていた,お母様の筆による額装された書にあった
"現状維持とは後退のことである"
という言葉は,自分の今いる立場・現在の在り方に対して印象深く胸に突き刺さるものがあった.
最後になりますが,木村社長はかなりの量の情報を伝えようとして下さったので,結構な急ぎ足で講演をされていた内容をきちんと網羅できたかどうか.また,洒脱で洗練されたKeynoteのプレゼンテーションの画面構成・視覚効果のインパクトをそのまま伝えたいがために無理に文章化を試みてみました.……うまく伝えられたかどうか,稚拙で未熟な文章になってしまっていないかと初参加だった私は懸念を感じています.
このたびは大変に貴重な場にお誘い頂けましたこと,また神奈川歯科技工ネットの方々の万全の準備体制と運営進行に心から感謝いたします.