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「『MAKERS――21世紀の産業革命が始まる』を読んで」

第34回神奈川歯科技工ネット研究会レポート報告

 

「『MAKERS――21世紀の産業革命が始まる』を読んで」

アルモニア  傳寳弥里  氏

 

レポーター: 株式会社横浜歯研  今福聡子

 

P1060167.JPG平成25年6月21日(金)かながわ県民サポートセンター会議室301号室において,第34回神奈川歯科技工ネット研究会が開催され,傳寳弥里氏が「『MAKERS――21世紀の産業革命が始まる』を読んで」というタイトルで講演をされた.

低価格の家庭用機が出現するなど,TVなどでも注目されることが多くなった3Dプリンタ.期待と興味に胸を膨らませる中,講演が始まった.講演は前半に「MAKERS」の内容,後半に3Dプリンタの現況について行われた.

 

 

クリス・アンダーソン氏は,雑誌ネイチャーやサイエンス,エコノミスト誌で働いた後これまで10年以上を米雑誌 ワイアードの編集長を務めながら,「ロングテール」「フリー」,「MAKERS」を著作.現在は無人飛行機の製造キットと部品を販売するオープンハードウェア企業,3Dロボテックス社を立ち上げ,数億ドル企業へと成長させている.今回紹介された「MAKERS」はクリス・アンダーソン氏が2012年9月(邦訳版は10月)に発表した著書で,この中で氏は第三次産業革命によって物づくりのあり方が大きく変わると予想した.この本が話題となったことで世間一般にも3Dプリンタに関する認知が広まりムーブメントが始まったと言われている.

 

 

20世紀型モデルと21世紀型モデル

 

従来の20世紀型工業モデルでは,発明家が自分で作った物を商品化するには製造企業にその発明のライセンスを供与して製造してもらわなければならなかった.

 

時計職人でスイス人だったクリス・アンダーソン氏の祖父も,自動で作動するスプリンクラーシステムを開発すると特許を申請.企業へ必死に売り込み,発明のライセンスを供与することで商品化するに至ったが,自分の発明をコントロールする術(すべ)は失うことになった.この20世紀型工業モデルは,パテントが切れるまでロイヤリティを受け取る形式で,生産手段を支配する者が権力を持っていた.起業家になるには資本があるか,有力者とのパイプが必要で,アイデアだけで世界を変えるのは難しかった.

 

ところがこれからの21世紀型工業モデルでは,発明家から起業家への道のりは存在しなくなるとクリス氏は述べている.アイデアとラップトップパソコンがあれば,多額の資本がなくてもオンラインのコミュニティでデザインを共有することができる.試作品はソフトウェアのコードを組むだけで商品化でき,グローバル市場にいる数億人の消費者に出荷できるようになるのだ.

 

 

第三次産業革命

 

1990年代のインターネットとウェブの出現は第三次産業革命といわれるが,クリス氏は本当の革命はこれから起こると述べている.産業革命とは寿命や生活水準,居住地域と人口分布などのあらゆることに変化を及ぼし,人々の生産性を劇的に拡大する一連のテクノロジーを指すものである.つまり,デジタル・マニュファクチャリングとパーソナル・マニュファクチャリングとが一体となった時こそ起こる.それがメイカームーブメントの産業である.

 

メイカームーブメントの特徴は

① デスクトップのデジタル工作機械を使って,モノをデザインし,試作すること.

② それらのデザインをオンラインのコミュニティで当たり前に共有し,仲間と協力すること.

③ デザインファイルが標準化されたこと.だれでも自分のデザインを製造業者に送り,欲しい数

だけ作ってもらうことができる.また,自宅でも家庭用のツールで手軽に製造できる.これが,

発案から起業への道のりを劇的に縮めた.

まさに,ソフトウェア・情報・コンテンツの分野でウェブが果たしたのと同じことがここで起きている.

 

これはリアルなもの作りのプロセスがデジタル創作のプロセスに似てきたことを意味している.

 

この様になる背景としては,製造業自体がデジタル化し,ネットワークで繋がり,オープンになってきたこと,大企業の生産ラインもデスクトップの機械も同じ言葉(言語)を使うため,作り手の選択肢が広がったことが挙げられる.グローバルな製造業は,数個から数百万個まで,どんな単位でも製品を製作できるようになったため,カスタム化と少量生産はもう無理な事ではなくなったのだ(小品目大量生産 ⇒ 多品目少量生産).

 

P1060165.JPG

 

メイカーズの資金調達

 

資金調達方法にクラウドファンディングというものがある.

 

サポーターや未来の顧客が商品の製造に必要な資金を援助するもので,ネット上の人気投票による寄付金集めの様なものから,銀行ではなく個人による正式な貸し出しまで様々な形がある.

 

その中から,特にキックスターターという方法を紹介していただいた.まず,希望者はプロジェクトの説明を投稿し資金援助をしてもらう.最低調達目標額を設定し,30日間で目標に到達すれば支援者全員のクレジットカードから寄付金が引き落とされる.目標額に達しなければ,誰からの寄付も受け取れないというものである.

 

キックスターターの利点としては

① 利子を払わず,自己資金を使わず資金を調達できる

② 資金調達のプロセスは市場調査に役立つ

③ 衆目のもとで資金調達することで無料のマーケティングになる

が挙げられる.

 

しかし,支援した起業家が実際に製品を作る保証はないし,作ったとしても約束したほどいいものとは限らない.また,いつそれが出来るかもわからない.起業家が途中でプロジェクトを放棄したり,雲隠れをしてもお金を返してもらえる裏づけはないという支援者側のリスクがある.

 

 

3Dプリンタ

 

休憩をはさみ,3Dプリンタの説明となった.光造形を日本に導入した山田眞次郎氏のブログがスクリーンに映し出され,3Dプリンタが稼働する動画や原理を説明したイラストが紹介された.

 

3Dプリンタのプラスチック積層造形法は,現在三種類ある.

光造形法

液体プラスチックに紫外線レーザーを照射して液体を固める方法.

現在は積層厚が25ミクロンまで可能.

3Dシステム社の創業者が小玉秀男氏の特許に目をつけ,「その積層厚を1ミリ以下とし」などを書き込んだが為に他社の参入は潰され,アメリカのほぼ独占状態となっている.

粉末造形法

光造形の液体樹脂を粉末状の樹脂にした方法.

樹脂の大きさは10から60ミクロンの粒で,レーザーを照射する事により10ミクロンの粒が溶け60ミクロンの粒同士の隙間を埋めてくっつける.

熱溶解積層法(FDM)

1988年にアメリカストラタシス社が特許を取得.

今,流行の3Dプリンタは全てこの積層法である.

熱可塑性樹脂をヒーターの熱で糸状に樹脂を溶解させ,ノズルから押し出し積層していく.

 

 

今回の講演に参加させていただき,3Dプリンタの誕生から今後の工業の在り方と,その流れを追って理解することができました.傅寳氏の時代の潮流を読む慧眼と見識に見習いたいと感じました.デジタル化が急速に進む昨今,そのスピードに乗り遅れないよう今後も様々な情報にアンテナを張っていきたいと思います.

 

最後に,この様な貴重な場を設けていただいた神奈川歯科技工ネット研究会の皆様に深く感謝申し上げます.

 

 

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産業革命( Industrial Revolution )

18世紀から19世紀にかけて起こった工場制機械工業の導入による産業の変革と,それに伴う社会構造の変革のことである.市民革命とともに近代の幕開けを告げる出来事とされるが,近年では産業革命に代わり「工業化」という見方をする事が多い.ただしイギリスの事例については,従来の社会的変化に加え,最初の工業化であることと世界史的意義を踏まえ,現在でも産業革命という用語が用いられている. (Wikipediaより)

 

第二次産業革命(Second Industrial Revolution)

産業革命の第二段階を表現するために,歴史家によって用いられる言葉である.通常,年代は1865年から1900年までと定義される.この期間にはイギリス以外にドイツ,フランスあるいはアメリカ合衆国の工業力が上がってきたので,イギリスとの相対的な位置付けでこれらの国の技術革新を強調する時に,特に用いられる. (Wikipediaより)

 

“3Dプリンター革命”~変わるものづくり~

    NHK クローズアップ現代 2013年3月12日(火)放送

 

個人も「メーカー」時代に 3Dプリンターの光と影

日本経済新聞 2013/5/12

 

テスラモーターズ 2003年設立の電気自動車製造販売会社

シリコンバレーにある工場はおよそ1マイルに及ぶ建物の中にあり,1000人以上が働いている.

その工場は数百という凡庸のKUKAロボットが全てをこなしている.

工場のお披露目会で「ここは巨大なCNC装置だ.プログラムを変えれば,どんなものでも作れる」と説明した.

 

『MAKERS』のクリス・アンダーソンらが来日講演で語った「未来の製造業」【WIRED CONFERENCE 2012レポ】

「基本は【個別医療デザイン】」 研究発表報告 「3Dプリンタについて」
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