「咬合の保持に主眼を置いたリテーナー義歯の技工」
第44回神奈川歯科技工ネット研究会レポート
「咬合の保持に主眼を置いたリテーナー義歯の技工」
レポーター: 山田昌彦(新横浜歯科技工士専門学校 専任教員)
去る平成26年7月18日,神奈川県歯科技工士会事務所大会議室にて,鶴見大学歯学部歯科技工研修科 河村 昇先生による標記講演が行われた.神奈川技工ネット研究会の定例会には以前より何度もお誘いを受けていながら,なかなか都合がつかずにいたが今回ようやく参加することができた.
発表されたリテーナー義歯というのは,矢口記念大森ユニオン歯科院長の阿部 實先生(鶴見大学歯学部 有床義歯補綴学講座 臨床教授)が重度歯周病患者の治療に実践されてきた装置である.
リテーナー義歯の特長として以下の3点を挙げられた.
①分割印象
②挙上咬合採得
③樹脂プレートによるオーバーデンチャー
まず分割印象法というのは,歯間通行部をシリコーンゴム印象材で採り,その上から全体をアルジネート印象材で採る方法で,動揺歯や骨植不良歯の印象による抜歯を防ぐことができる.
次に挙上咬合採得は樹脂プレートの厚みを確保するため,また重度歯周病でフレイアウトし,いわゆる“すれ違い咬合”の状態を呈している場合,正常な咬合に戻すために咬合の挙上が行われる.そして動揺歯の固定と保護を目的とし, 樹脂プレート(熱可塑性)を用いたリテーナー型のオーバーデンチャーを製作し,調整を加えながら咬合を保持できる『金属リテーナー義歯』への置き換えにつなげていく.すべては患者固有の咬合の保持を第一義の基本原則としている.
いずれの特長も通常おこなわれている術式よりも煩雑で時間もかかるものだと河村先生は語る.しかしそこには「患者の歯を残したい.そのための最善の方法を」という阿部先生の熱い想いがあったことも語り,それに応えるために開発されたキャップクラスプや金属構造義歯は,鶴見大学歯科技工研修科による昨年の第5回国際歯科技工学術大会における発表で,技術力と治療への取り組みが高い評価を受けたことは記憶に新しい.
講演後の質疑応答で筆者からの質問に,現在も阿部先生と一緒に治療に携わっておられる矢口記念大森ユニオン歯科の水野行博先生が丁寧に補足して下さった.お話される前に自己紹介をされたのだが,まさか隣の席にいらっしゃると思っていなかったので,とても驚いてしまったと同時に久々にお会いすることができてとても嬉しかった.
講演会終了後の懇親会の方でも,美味しい中華料理を食べながら教育のことやラボの経営のお話など技工ネット研究会ならではのお話が聞け,参加することができて良かったと思えた.講師の河村 昇先生はじめ神奈川歯科技工ネット研究会の皆様に感謝申し上げます.
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鶴見大学歯学部歯科技工研修科[臨床技工・アイデア・ワンポイントテクニック etc...]
『即!実践 臨床技工テクニカルヒント』 医歯薬出版,東京,2014.