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「歯科用CAD/CAMシステム 世界潮流2014」

41回神奈川歯科技工ネット研究会レポート 

(平成25年度神奈川県歯科技工業協同組合第2回経営研修会 共催)報告 

 

「歯科用CAD/CAMシステム 世界潮流2014 

デジタルプロセス㈱デンタル事業室室長 藤原稔久 先生

レポーター:宇佐美孝博((株)ユーエスデンタルラボラトリー代表取締役 )

 

 


 

 

去る平成2621DSCN1947.JPG5日(土)に平成25年度第2回経営研修会(主催/神奈川県歯科技工業協同組合・共催/神奈川歯科技工ネット研究会・後援/一般社団法人神奈川県歯科技工士会)が神奈川県歯科技工士会館大会議室で開催された.河合正夫先生(神奈川県中小企業団体中央会 連携開発部)と藤原稔久先生(デジタルプロセス㈱デンタル事業室室長:左写真)の2氏を迎えての研修会を予定していたが,前日からの大雪で交通手段が失われたため講師の一人の河合正夫先生が欠席となるなど開催自体が危ぶまれる状況にあったが,足もとの悪い中,熱心な参加者が32名集まり10分ほどの遅れでスタートとなった.

 

冒頭,神奈川県歯科技工業協同組合 圡田康夫理事長の挨拶の中で一冊の本が紹介された.ポ「中国の製品」の闇』(鈴木譲仁 著)と題されたこの本は,中国からの歯科技工物輸入の危うさ・弊害を浮き彫りにしている.この中には,最高裁で争われ結果的に日本の歯科技工士有志側が敗訴に至った裁判の結果を受けて,著者はその現状を,憲法にある「すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」ということにさえ違反すると思うのは当然のことと憂えている.常に前向きな圡田氏は「ここに規制なく海外からの歯科技工物が流入する状況に歯止めがかけられないのであれば,逆に我々が海外に打って出ることを検討するべきではないか」と結んだ.今回は「海外事業展開の実際」と題した河合正夫先生の講演が中止になった代わりに少人数によるグループディスカッションを行うことになり,本日の課題でもある“海外事業展開”について活発な意見交換がなされた.

 

・海外歯科技工物の流れは止めらない

・海外委託の現状はどのようなものかを把握する

・海外と我々の違いを認識することが必要

・途上国に進出の際,物価の差をどのように埋めるか?逆に欧米など文化圏に向くのは難しいのではないか?

・日本人歯科技工士は海外で厚遇されている現実

・日本の高い技術で勝負すべきである

・現地の法律面をクリアーする必要がある

・既に海外進出を果たしている他業種の企業に教えを請う

・現地のキーパースンを掌握することで案外上手くいくのではないか

・団体(組合など)で取り組み,現地の法人と組む必要もある

・物ではなく技術を売るという考え方

・国内の制度の見直しが必要となる

・全体的なリサーチが不可欠である

 

各グループからはこのような意見が出され,筆者もこの“海外事業展開”について少しずつ現状や問題点を認識できた.


DSCN1948.JPG

 

藤原稔久先生は「歯科用CAD/CAMシステム 世界潮流2014」と題した講演を予定していたが急遽“海外事業展開”を主とする内容に変更された.日産自動車から歯科用CAD/CAMに携わり二十数年になるという藤原氏は,「結論から言って日本の歯科技工の技術レベルは高いので海外に出るチャンスは多い」という言葉から講演を始めた.2013年のケルンIDS(インターナショナルデンタルショー)においてCAD/CAM関連のブースが大幅に増加していて,その増加グラフはS字カーブで推移が示され,計算式により今回のブース数を予想したものと一致したそうだ.これは世界的な普及数においても同様な計算が成り立ち,普及全体の16%を超えた段階で大きく普及することが予想されるらしい.しかし日本においての普及率は欧米に比べて極端に少ないのも現状であるとした.


ケルンIDSの規模の大きさ・各種加工機や口腔内スキャンなど,写真を交えての紹介の中に台湾,中国,韓国の戦略的なブース展開が紹介された.一つ一つの企業はさほど特徴があるものではないが,国単位でまとまった迫力あるブース展開で注目を集めていたそうだ.まさにIDSは海外事業展開の縮図であるということが理解できた.歯科技工所においても海外の企業はISOを取得した上で海外展開を図ったり,相手国に合った形での進出を心掛けていたりして躍進しているらしい.逆にアメリカでは35%の歯科技工所が廃業に追い込まれ,オーストラリアやヨーロッパ先進諸国でも苦戦を強いられている現状は,中国や途上国の躍進や東南アジアの自立がもたらした歯科技工物の世界的分業化の潮流であるとした.一方日本は鎖国状態であり今後は企業間・地域間の連携を強化して海外展開することが求められることを再認識した.藤原氏は,ただ観に行くだけでなく出展することにより深く状況を把握できたとIDS2013の報告を締めくくった.

 

また歯科を産業ととらえると,日本においては2兆3千億円市場となり決して小さくないと続けた.自身出身の自動車産業を例に,歯科における海外進出の可能性に触れた.つまり排ガス規制への日本企業の取り組みが高性能で低燃費の自動車を作り,世界のシェアを獲得した流れは,医療費の割合が8.5%と低いにもかかわらず,長寿を実現して高水準な治療を持つ日本が,海外に出ても決して遅れをとることは無いということだ.自身の会社,デジタルプロセス㈱は多くの自動車メーカーと取引し,自動車の構造解析や3Dの衝突シミュレーションにCAD/CAM/CAE技術を応用してきた.自動車開発で培ったCAD/AM技術歯科分野への応用をすることにより,優れた日本の歯科技工士が高性能で低価格なCAD/CAM機器を持てば鬼に金棒になるということから,高精度,小型(A3サイズ),高速,使いやすい(日本語インターフェース),低価格(健康保険適用)なシステムを提供することにより,その世界進出に協力したいとの考えを述べた.

 

海外進出の一つの候補として藤原氏が有望と注目している国がマレーシアである.親日で知られるこの国は,産油国なので国自体裕福であり歯科医の医療・経済レベルも高い.しかし歯科技工士を養成する学校は1校しかなく,歯科技工士不足は深刻だという.一般の国民が安く治療できる政府の診療所ではデンチャーは2年待ちで,現地で開業しているドイツ人歯科技工士の模型を紹介されたが,お世辞にも精確とは言えないものだった.歯科技工に対する法律がなく,政府の支援も受けやすい環境にあることも注目すべき要因だということである.またイスラム教のこの国に進出するということは,他の回教国にもハラルマークと共に進出可能となり,隣国への広がりも期待できるということだ.

 

筆者は,現在まで歯科技工に取り組む中で海外歯科技工物の流入や逆に日本企業の海外進出を意識することはあまり無かった.しかし,今回の研修会におけるグループディスカッションや藤原稔久先生の講演により自分がいかにぬるま湯の中で安穏と過ごしていたかを痛感した.自分はともかく,次世代の歯科技工士のためにどのように行動するべきか,慎重に考えたいと思うと同時に個人では何もできないことも認識せざるを得ない.いずれにしても今回の研修会がこれからの一歩に大きく影響することは間違いない.現在まで一貫して“世界市場を視野に”研究開発を行って来られた講師の藤原先生の語り口は,穏やかで誠実・実直なお人柄を反映していた.大雪の中集まった甲斐のある有意義な研修会であった.

 

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普及学 Wikipediaより

内閣府 消費動向調査

医療機器産業ビジョン2013 資料編 厚生労働省(PDF

ハラルとは? マレーシアハラルコーポレーション株式会社

 

 

デジタルプロセス株式会社

デジタルプロセス㈱デンタル事業室 ーWAXY

デジタルプロセス㈱デンタル事業室 ー顎模型デジタル化サービス

デジタルプロセス㈱デンタル事業室 ーDECSY

 

IDS2015

 

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出典:新中間層獲得戦略 ~アジアを中心とした新興国と共に成長する日本~.新中間層獲得戦略研究会資料,2012より

 

 

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