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「経営的視点からのレーザー溶接機導入について」

第42回神奈川歯科技工ネット研究会レポート

 

「経営的視点からのレーザー溶接機導入について」

 

レポーター:藤田耕介( 株式会社横浜トラスト歯科技工研究所 代表取締役 )

 


 

平成26年5月16日(金),かながわ県民活動サポートセンター405会議室において,第42回定例会が開催され,有限会社 ケイ・ワークス代表取締役 橘田 修氏による標記講演が行われた.

 

P1080132.JPG冒頭で橘田氏は,当研究会会員の事業所ではレーザー溶接機の設置が既になされている所は多いと前置きしながらも,日本の歯科技工業界は欧米と比較してその普及が遅れていると指摘した.しかしながら,近年においては比較的安価なアーク溶接機も含めた各種接合装置が幅広く提供されており,多くの経営者がその導入を検討している段階にあると概説した.

 

橘田氏の技工所では2007年にレーザー溶接機(アルファレーザーALS100:セレック社)を導入した.その当時,500万円の事業予算で歯科用CAD装置とどちらを先に購入するか,その優先順位を付けることに迷っていたが,月刊「歯科技工」(医歯薬出版)の連載,都賀谷紀宏氏の「レーザーが拓く21世紀型歯科技工 レーザー溶接入門」を読み始めたことによって,「直接的な利益を生み出す装置ではないが,抱えている様々な臨床的課題を解消できる」と確信し,その導入に踏み切ったと語った.

 

橘田氏はレーザー溶接機導入後,有床義歯においては金属床の追加修理や維持装置の連結,また,冠橋義歯においては適合不良や鋳造欠陥の修正に大きな利用価値があったことを報告し,具体的には従来の鑞着法によるインプラント上部構造体の口腔内試適時において長い仮着用ノブを付与したまま試適する不評さを改善したこと等の成果を詳述した.そして現在では数台の歯科用CAD装置が設置されているが,レーザー溶接機を優先的に導入した当時の判断は間違っていなかったと振り返った.

 

次に橘田氏は各種溶接法の基礎について解説し,歯科技工における接合法としては従来技術のろう付けが一般的であるが,レーザー溶接は母材を加熱融解する融接であり,その違いについて明確に区別することが本技術の理解への第一歩であると説いた.

 

そして,レーザービームをコントロールする観点から,その特性を規定する要件(パラメーター)の説明を行った.パラメーター設定では,融接条件や被溶接材料の種類によって術者がその設定値を選択しなければならない.パルス幅・スポット径・パワー(印加電圧)等の個別変化に伴う溶接現象の最適化を確立し,これらの有効性を十分意識しながら作業しなくてはならないと力説した.

 

また,メーカー各社の各種レーザー溶接機に表示される数値は同じでも,機種によってパフォーマンスが違うことへの注意が必要であると強調した.橘田氏が採用しているアルファレーザーのユーザーは全国的にも比較的多く,各種症例に応じたパラメーター情報を共有できる優位性があるとも述べ,それが比較的高価である同機を選択した理由の一つにもなったと語った.

 

P1080131.JPG

 

レーザービームが被溶接材料表面に照射時の溶融形態の説明に関して,最初に熱伝導型溶接とキーホール型溶接の形態の違いを聴講者に供覧した.溶融品質に影響を及ぼす基本的知識として,この形状(溶け込み深さ)のメカニズムを理解することの重要性を述べた.そして溶接変形に対して,片面からレーザー照射を行い,照射方向に曲がってしまった被溶接材料に対して同レベルのパラメーター設定値で反対方向から照射し,曲げ戻す技法や,突合わせ面を可能な限り密着させ,照射面から反対側へ同溶融径を形成する貫通溶接技法のポイント等を説明した.同時に,その経験値を上げ,日々技能を習熟させていくことが良好な溶接結果を得ることに繋がると付け加えた.

 

最後に橘田氏は経営的視点からのレーザー溶接機導入について,どのように考えるかをまとめた.これには京都大学再生医科学研究所ナノ再生医工学研究センター・都賀谷紀宏氏の論である“目的追従型装置”と“目的探査型装置”という考えに基づいて説明を行った.これは,例えば歯科用CAD/CAM装置は素材をデジタルデバイスによって制御し,機械化によって成型加工を限定的に行なう“目的追従型装置”であり,レーザー溶接機は使用者がその機能から「何を創り出すことができるか(=創製)」を考えながら活用する“目的探査型装置”であると解説し,この考えが明確に構築できれば直接的な利益に結びつかないが高額なレーザー溶接機導入への意欲の一助になるのではないかとの認識を示した.自身の技工所ではこの創製という考えに対して,「現在は目的探査中である(笑)」としながらも,技術の可視化から安心に結びつかせる商品体系を確立できないかについて検討していると伝えた.

 

本講演を通じて,筆者は改めて歯科技工技術と一般工業界における量産化加工技術には大きな違いがあると感じた.歯科技工はマニュアルだけでは達成されない術者自身の蓄積された個人知(個人的な経験知)を伴いこれを駆使する必要がある.今後の歯科技工業界では,歯科用CAD/CAM装置の支援等による作業の効率化や平準化,合理化が図られることを期待されている.しかし,その前に「創製」という面白みが歯科技工所経営の根幹にある心的エネルギー(モチベーション)のインセンティブになっていることがよく理解できた講義であった.

 

 

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「補綴臨床」別冊 補綴設計・リフォーム・修理 レーザー溶接・新技法を臨床に活かす

 

歯科技工・補綴パラダイムシフト『レーザー溶接入門

 

伊原啓祐・畑山賢伸・橘田 修:座談会 卒後教育機関の取り組みから考察する“考える技工”の重要性 -日々の臨床技工に創意工夫を凝らし,効率的で質の高い補綴物製作を行うために.歯科技工42巻4号 Page381-394,2014.

 

 

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