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「チェアサイド用CAD/CAMシステムの現状と今後について」

第48回神奈川歯科技工ネット研究会レポート

 

『チェアサイド用CAD/CAMシステムの現状と今後について』

シロナデンタルシステムズ株式会社 プロダクトマーケティング部  川松 上総 氏

 

レポーター: 北原 悠 (神奈川歯科技工ネット研究会)

 


 

「デジタルデンティストリーという言葉がかなり一般的になってきた」.今回の研究会の幕開けとともに,司会者の藤田耕介氏(株式会社横浜トラスト歯科技工研究所)が仰った言葉である.

 

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一般工業界においてはすでに多くの実績のあるコンピューターを使用した加工技術が近年,歯科技工の業界にも徐々に取り入れられてきた.とくに2014年4月の診療報酬改定時には,一定の制約がつくものの歯科用CAD/CAMを用いた小臼歯の歯冠補綴治療が保険適用の対象となり,これが歯科治療の自働機械化にさらに拍車をかけていくことが予測される.

 

今回の研究会では“歯科技工で使用されているCAD/CAMだけでなく,チェアサイドで使用されているCAD/CAMについて口腔内のデジタルインプレッション(印象)から学ぼう”という意図で企画された.講師は川松上総 氏(シロナデンタルシステムズ株式会社).同社のCEREC Systemを通してみた,歯科用CAD/CAMの現状,そして今後どのようになるのかについての情報をシェアすることに焦点が当てられた.

 

 

―Sirona Dental Systems社について―

ドイツに本社をもつ同社.前身はレントゲン(X線撮影)装置を世界で初めて開発したシーメンス社の歯科部門で,創業から135年の歴史をもつ.Center of Innovationという開発センターを置き,常に最先端の技術を開発し次世代のものを作り続ける点が強みだ.

 

日本の歯科業界に参入して約60年,現在では世界135カ国に事業を展開し約3,300人の従業員を擁する.年間売上高約1,100億円のうち,研究開発費に毎年60億円を投資(約6%).2006年,USA NASDAQ (Stock Market)に上場している.

 

 

―CEREC Systemについて

✔システムの概要

Sirona Dental Systems社の主力製品であるCEREC Systemは,チェアサイドで主に使用されるシステムである.今回の講演では,既成の歯列模型を患者の口腔内と想定して模擬実演して頂いた.

 

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本システムでは,スキャナーにCADが内蔵されているCEREC ACで,口腔内スキャン(Intra Oral Scanner:口腔内スキャナー,以下IOSにて)と修復物のデザインを行う.実演では,スキャナーを歯列模型に当て,ゆっくりと対象物をなぞるようにこれを動かしていった.動かすと同時に,スキャナーに接続されているコンピューターの画面上に,模型が3Dで姿を現す.図はすべてカラーで表示されるため,歯と歯肉との境界が明確になっていた.

 

こうして形成歯台をスキャンの後,対合歯列をスキャン,最後に頬側面スキャンする.その後ソフトがこれらを3Dにてマッチングさせる.マッチングは自動で行われるため,この間,歯科医と患者のコミュニケーションを図る時間がとれる.またマッチング後には,カラーコードで,各所の咬合の強弱が確認でき,咬合調整が容易にできる様になっていた.これらに加え,ソフトが周囲の歯の形状を計算しながら,もともとあった歯,つまりは治療対象の歯の形態を自動的に再現する(この機能を司るのがBiogeneric softwareといい,Sirona社の特許(ドイツ国内)となっている).この流れで出来上がったデザインを修正する流れであった.その後,MCXL millingにて削り出しを行うとのことであったが,実演ではこの部分は省略.

 

One day treatmentをテーマとし即日修復が可能となっており,スキャンから修復物の削り出し,口腔内へのセットまでだいたい1時間程度で完了するとのこと.CAD/CAM適用以前の,複数回の通院を要する治療手順と比べればその時間短

縮は雲泥の差である.

 

✔歯科用CAD/CAM30年の歩みとCEREC Systemの普及状況

上記のシステムは,単冠修復で審美性の求められない所,つまりは小臼歯・大臼歯(特にインレー)で強みを発揮する.約30年の実績と信頼を積み上げてきたCEREC Systemであり,経営学の事業戦略フレームワークのひとつ,SWOT分析でいうところの「自社の強み(Strengths)」を活かして,他社にはないオンリーワンのアドバンテージを以って普及・改良を図って

きた.この30年の歴史と並行し,ラボサイドでも,使用されるセラミックやCAD/CAMシステムに大きな変容があった.30年前の時分では,歯科用CAD/CAMとしてはProcela(Nobel Biocare社)が既に販売されていたが,当時は金属のCastingのみが可能であった.これが1995年ごろになると,セラミック(長石系)やジルコニアの削り出しも可能になってくる.またジルコニアの普及とともにラボ用のCAD/CAM機器の新規参入も増加,選択肢が広がる.

 

一方,歯科医院内で使用できるIOSもIDS2011(ケルン国際デンタルショー)より本格的に普及し,IDS 2013で20社以上がIOSを展示.

 

こうした中,CERECはいち早く歯科用CAD/CAMの先駆者として歯科医院に向けて機器を販売,展開し,現在,世界各国で40,000台以上のCEREC Systemが導入されている.医院数に対して,たとえばアメリカでは13.5%(CADC/AM普及率は15.5%),オーストラリア13%,スイス20%以上,ドイツ15%となっている.CEREC 3以降に限るが,日本国内では2,100施設に設置されている(3.09%).

 

 

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✔CEREC systemの強みとできる事

 CEREC Systemのコンセプトと強みとは,下記の通り.

 

1. One day treatment

治療全工程で浸潤麻酔1回.仮歯不要.⇒ したがって感染リスクも低い.

2. Digital Impression(30年前からこのConceptは変わらず)

印象材,石こう模型不要

3. CEREC 修復の利点

審美性,生体親和性,エナメル質と同じ摩耗度(口腔内での長期安定性も高い)

 

また特記すべきは「CEREC systemでできる事」を大別した下記の表8項目のうち,2項目(緑色部分)が本System,つまり院内で完結できる点である(特にインレー修復).このメリットインパクトは大きい.

単冠修復物の製作

ジルコニアクラウンの製作

プロビジョナルの製作

インプラントアバットメントの製作

インプラントの上部構造の製作

フレーム&上部構造同時製作

コーピング/フレームワークの製作

パターンレジンの製作

 

マテリアルに関しては,Sirona社が材料メーカーでないために,長石セラミック,ジルコニア,ガラスセラミック,レジン等の専用ブロックをVITA-Zahnfabrik社,Ivoclar Vivadent社,3M ESPE社,GC社などのメーカー各社が提供している

 

接着に関しては細心の注意を払う必要があり,各マテリアルに最適なシステムの選択が必要であり,形成等も含めてSirona社のトレーニングカリキュラムを受講することでスキルアップを図ることができる.またCEREC Systemを導入したことで歯科医師の先生の形成手技のレベルも客観性をもって上達していくという印象深いエピソードも伺った.

 

 

先述のとおり,単冠修復で高度な審美性の求められない所,つまりは小臼歯・大臼歯(特にインレー)で強みを発揮するものの,審美領域は院内(チェアーサイド)で完結する事はできず,技工士との連携が不可欠になる.ラボサイドでもCAD/CAMが普及する中,チェアとラボ,双方のサイドでどのように連携していくのかが今後の大きな課題であるとの認識であった.

 

門外漢としては,この部分が非常に興味深い所であった.産業の歴史をひも解いてみれば,産業革命からはじまり,人的労働力が機械に取って代わり,人が行ってきた作業を機械が行う.素直に考えれば,CAD/CAMが歯科技工士に取って代わるのではないか,と.

 

この点,川松氏は連携の一環として,医院においてCERECインレーを使用した治療の推奨を挙げる.保険の金属インレーで治療されるところを,より審美性の高いCERECインレーにて治療を行う事により,患者の審美への認知と要求を高める効果を狙うことができる.患者は,一度審美性の高いものを口腔内に入れると,より綺麗な見た目を求める傾向があるのだと言う.そこで,CERECの白いインレーを取っ掛かりとし,自費治療率の向上を促し,その結果として次第に上記の図で挙げたような院内では賄いきれないような多用な自費技工物がラボに託されることにより,どの立場からでもwin-winの関係になれるのではないか,とのことであった.

 

 


 

シロナデンタルシステムズ株式会社

 

CEREC AC Omnicam / Bluecam (光学印象採得装置)――PDF

 

CEREC Omnicam(パウダーフリー・フルカラーの口腔内スキャナー)(動画)

 

Sirona  inLab ラボサイドソリューション(デンタルラボ用多機能CAD/CAMシステム)

 

IDS2015(ケルン国際デンタルショー)

 

『7つの習慣』スティーブン・R・コヴィー著(7つのうちの第四の習慣が「win-winを考える」)

 

 

 

 

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